【論題案文言】 「日本は、防犯目的の監視カメラの設置又は利用を大幅に制限すべきである」 【背景】  道路・公園・広場・駅等、不特定多数者が利用する公共空間に設置される防犯カメラは今日の我々の日常生活においてすっかり身近な存在であり、犯罪の抑止や早期解決につながる事例も多いとされる。他方で、プライバシーや肖像権に関わる多くの情報が収集されて監視社会化を助長する恐れはないか、収集された情報は適切に管理されているか、漏洩の恐れはないか、他の情報と紐付けられて濫用される可能性はないかなど、多くの懸念も指摘されている。防犯カメラの適正な設置・運用を目指して条例を制定している地方自治体もかなりの数に上っている(参照、宇那木正寛『改正個人情報保護法で変わる自治体防犯カメラの法務と実務』(ぎょうせい、2022年))。地方自治体のみならず国として防犯カメラの設置・運用について規制を設ける必要性はないかについて議論することには意義があると考えられる。 【考えられるプラン】  考えられるプランとしては、   (1) 国や地方自治体が公共空間に防犯カメラを設置することを禁止又は大幅に制限する (2) 私人が私有地に設置するが、公共空間を監視対象とする防犯カメラを禁止又は大幅に制限する (3) 防犯カメラにより得られた情報の利用や提供を大幅に制限する (4) 防犯カメラ及び得られた情報の管理体制について厳しい規制を設ける 等が考えられる。なお、「防犯カメラ」の定義は防犯を「目的」とするのか防犯という「結果」が要求されるのか曖昧だとも考えられること、特定物の常時監視を目的とした監視カメラ(例:河川水位の監視)を対象とすべきではないことから「防犯目的の監視カメラ」としている。(なお、上記宇那木著は、「防犯カメラ」を「防犯などを目的として道路、公園、広場などの公共空間において本人の同意なしに個人の容貌・姿態や行動に関する情報を継続的に収集するビデオカメラとその記録装置が一体となったビデオカメラシステム」と定義している。) 【「論題案の要件」についての検討内容】 1) 原則として、時事問題を扱った政策論題であること  →上記の自治体条例に現れているように防犯カメラに関する政策は社会問題になっており、また、プライバシーと監視社会は時事的なトピックであるため本要件を満たす   2) 主語は原則「日本は」「日本政府は」のいずれかであること  →「日本は」を主語としている   3) 1シーズン(約3ヶ月)に渡って議論可能な論題であること。すなわち、 3)-1 十分な量の資料が入手可能であること(Google、CiNii、NDL-Online等の検索検索結果の添付が望ましい)  →Google Scholar: 監視カメラ 15,800件、防犯カメラ 14,200件、crime prevention camera 19500件、security camera 18100件、surveillance camera 26500件  →CiNii:防犯カメラ595件、監視カメラ1346件 3)-2 ある程度の量の肯定側・否定側議論が作成可能であり、側による勝敗バランスが取れると考えられること(考えられる肯定側議論例・否定側議論例を添付のこと)  →上記のようにプランにはバリエーションがあり、メリット・デメリットも十分議論可能である 3)-3 論題と同じ政策が論題使用期間中に実際に採択される可能性が十分低いと考えられること  →自治体による条例は今後も増加が見込まれるが、現時点で国による立法の見込みはない(ただし、個人情報保護法は、防犯カメラが取得した情報の利用についてすでに制約を課していると考えられる) ======================================== 運営からのコメント・質問 3)-2に関して、プランにバリエーションがあることはわかりましたが、メリット・デメリットが具体的に提示されていないように思われます。 ・複数のメリット/デメリットが提示可能でしょうか、ある程度具体的なメリット/デメリットのストーリーを提示いただけないでしょうか。 ・リサーチの起点となるような、肯定側/否定側の論を張った文献が存在するでしょうか(参考文献をご提示いただければ幸いです)? ======================================== [論題提案者からの回答] ご検討と適切なご質問をありがとうございます。以下、お答えさせて頂きます。 > ・複数のメリット/デメリットが提示可能でしょうか、ある程度具体的なメリット/デメリットのストーリーを提示いただけないでしょうか。 多様なプランがありえ、それぞれのメリット・デメリットが異なりますが、一例を挙げれば、 <A案> プラン:公共空間に政府が防犯カメラを設置することの禁止 メリット:肖像権の保護・プライバシーの保護 デメリット:犯罪抑止力の低下・早期検挙が困難になる <B案> プラン:防犯カメラによって得られた顔認証データの特定目的利用の禁止 メリット:プライバシーの保護、人種差別の防止(顔認証が人種差別的な誤認逮捕や立ち入り禁止などの誤った運用を生むリスクの回避) デメリット:犯罪抑止力の低下、さまざまなシステムのコスト増大 <C案> プラン:民間の防犯カメラからの政府の情報取得に制約を科す(例:犯罪捜査の場合、現在は任意提供や捜査関係事項照会による情報取得が可能だが、裁判官の令状を必要とする)メリット:人権制約的濫用(公安関係情報の継続的収集等)の防止 デメリット:犯罪抑止力の低下 ただし、この論題の課題として、例えば「情報管理者を置き、セキュリティの確保を求める」規制や、現実にEUで導入されている程度の「現実的な」プランとした場合、デメリットの立証が難しく、肯定側の勝ち逃げが可能となりうることが挙げられます。 そう考えると、また、ご質問を頂いて行った文献調査の結果を踏まえると、 プランやメリット/デメリットのバリエーションは乏しくなりますが。 「日本は、防犯又は監視を目的とする顔認証技術の利用を禁止すべきである」 という論題案も考えられるかもしれません。 > ・リサーチの起点となるような、肯定側/否定側の論を張った文献が存在するでしょうか(参考文献をご提示いただければ幸いです)? 文献は、どうしても「現実的」でバランスを考えた議論になり、ディベートでそのまま使いにくい点がありますが、 まず、説明で述べた宇那木正寛『改正個人情報保護法で変わる自治体防犯カメラの法 務と実務』(宇那木著は、論点を網羅しています。 また、 三宅孝之「監視・防犯カメラと犯罪予防」(2015) https://ir.lib.shimane-u.ac.jp/files/public/3/34467/20170425024113910993/a001005901002.pdf 中野佑一「「防犯カメラには犯罪を抑止する効果があり、安全をもたらす」という想像」(2021) http://repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/MD40140517/rsk057-04-nakano.pdf は犯罪抑止力に対して懐疑的な立場で論じています。 顔認証については、 大規模監視を目的とする顔認証技術の禁止を主張するアムネスティの文献として https://www.amnesty.or.jp/news/2022/0217_9467.html 米国やEUの顔認証技術の規制については、 尾崎愛美「犯罪捜査を目的とした顔認証技術の利用に対する法的規制のあり方?米国の議論を参考に」 https://www.jstage.jst.go.jp/article/inlaw/19/0/19_190004/_article/-char/ja 小泉雄介「EUの「法執行分野における顔認識技術の使用に関 するガイドライン案」の概要」 https://www.i-ise.com/jp/information/report/2022/202209.pdf 水野陽一「顔認証技術を用いた捜査手法に対する規制方法」(2021) https://kitakyu.repo.nii.ac.jp/record/917/files/(HR004912MY)%E6%B0%B4%E9%87%8E%E9%99%BD%E4%B8%80.pdf があります。