■国会議員無作為抽出(ロトクラシー)論題について 本論題案は、昨年秋季大会論題案への応募があったもので、その際の議論をこちらに再掲させていただきます。 ==========以下昨年応募時の議論========== [JDA秋季大会論題案]国会議員無作為抽出 JDA秋季大会論題案をご応募いただいたので、こちらに投稿させていただきます。質問、コメント等は、本メッセージへのコメント、tournament(at)japan-debate-association.org へのメール、で受け付けさせていただきます。 どうぞよろしくお願いいたします。 ======================================== A論題案文言 「日本は国会を構成する議会のうち一部または全部を有権者からの無作為抽出で選出された議会に代置すべきである」 「日本は参議院議員の選出方法を有権者からの無作為抽出にすべきである」 「日本は非諮問型のミニパブリックス/討論型世論調査を導入すべきである」 B論題背景に関する簡単な説明 論題の細かい文言にはいろんなバラエティが可能だが、ミニパブリックスを公式の制度として導入することを検討する論題案である。ミニパブリックスとは基本的には無作為抽出された一般市民からなる集団に適切な情報を与えつつ、議論を促し、その後にある政策の是非などについて投票を行わせるものである。中でも有名なのが討論型世論調査であり、日本でも実験が行われた。議員を選挙し、彼らに決定をゆだねる代議制民主主義を補完ないし代替する民主主義のオルタナティブとして注目を集めている。 ここ数十年の間に社会実験のレベルでは多数の実証研究が蓄積されており、諮問レベルではアイスランドやベルギー、中国など公的なレベルでも実施例がある。またミニパブリックスを支える規範的な根拠として熟議民主主義論が特に近年盛んに議論されてきている。 まさに「熟議」を実践するこの競技において、熟議について熟議してみよう、という提案である。 C「論題案の要件」についての検討内容 1) 原則として、時事問題を扱った政策論題であること ⇒政策論題であり、抽選制の議会は近年実際に真剣に検討されている。特に、本論題案に対する関心はここ数年で世界的に飛躍的に高まっている点で注目される。まず、フィシュキンらの討論型世論調査は日本も含めた多くの国々で実施されている(フィシュキン『人々の声が響き合うとき』)。また、ベルギーのドイツ語圏共同体(人口7万人の自治体)では、無作為抽出された市民からなる常設議会が設置することが決まるなど(『選挙制を疑う』あとがき)、本格的な制度化の動きも各国で進んでいる。日本においても、昨年に抽選制議会の導入を提案するレイブルック『選挙制を疑う』の邦訳が出版されて以降、岡崎晴輝「選挙制と抽選制」(『憲法研究』第5号)、松尾隆佑『ポスト政治の政治理論 ステークホルダー・デモクラシーを編む』、福家佑亮「デモクラシーを支えるもの」(『実践哲学研究』第42号)、瀧川裕英「なぜくじで決めないのか?」(『論究ジュリスト』No.32)、山口晃人「ロトクラシー:籤に基づく代表制民主主義の検討」(『政治思想研究』第20号)など、続々と抽選制関係の研究書籍・論文が出版されている。また、今年の9月末の日本政治学会でも「ロトクラシーの可能性:理論と実証の両面から」というセッションが設けられており、抽選制議会への関心が高まっているといえる。 2) 主語は原則「日本は〜」「日本政府は〜」のいずれかであること ⇒日本は〜という形式になっている。 3) 1シーズン(約3ヶ月)に渡って議論可能な論題であること。すなわち、 3)-1 十分な量の資料が入手可能であること(Google、CiNii、NDL-Online等の検索検索結果の添付が望ましい) ミニパブリックス/ミニ・パブリックス/mini publicsの検索結果 CiNii: 16 (https://ci.nii.ac.jp/fulltext…) NDL-Online: 20 (https://ndlonline.ndl.go.jp/…) Google Scholar(英語):2840 (https://scholar.google.co.jp/scholar…) 討論型世論調査/deliberative poll(ing) CiNii:33 (https://ci.nii.ac.jp/fulltext…) NDL-Online:49 (https://ndlonline.ndl.go.jp/…) Google Scholar(英語):2380(“deliberative poll”), 4820(“deliberative polling”) (https://scholar.google.co.jp/scholar…) (https://scholar.google.co.jp/scholar…) 熟議民主主義 CiNii:74 (https://ci.nii.ac.jp/fulltext…) NDL-Online:109 (https://ndlonline.ndl.go.jp/…) Google Scholar(英語):36700 (https://scholar.google.co.jp/scholar…) Sortition Google Scholar(英語・日本語):2570 (https://scholar.google.co.jp/scholar…) Amazon(洋書):47 (https://www.amazon.co.jp/s…) 〇日本語の文献も少なくなく、その内容も非常に充実したものが多い(例えば、田村哲樹『熟議の理由』、『熟議民主主義の困難』、田中愛治ら『熟議の効用、熟慮の効果』、フィシュキン『人々の声が響き合うとき』、柳瀬昇『熟慮と討議の民主主義理論』、早川誠『代表の思想』、レヴァイアサン第61号の熟議特集など)。熟議民主主義論については近年非常に関心が高まっていることもあり、書籍以外にも多数の研究論文が出されている(政治理論・政治哲学の書籍、民主主義関連の教科書には必ずといってよいほど、熟議民主主義についての章が置かれている)。抽選制議会に特に注目したものとしては、レイブルック『選挙制を疑う』や先に紹介した複数の論文がある。 これらに加えて、英語圏での研究の蓄積は膨大にあるため、資料が不足することはないと思われる。特に、抽選制議会を主題とした文献としては、Guerrero(2014) “Against Election”やZakaras(2010)”Lot and Democratic Representation”、O’Leary(2006) Saving Democracy: A Plan for Real Representation in Americaなど。また、昨年の4月に出版されたLegislature by Lotは抽選制議会についての17の論文が収録されている他、最近も抽選制がらみの3冊の書籍が出版されている(Lafont (2019) Democracy without Shortcuts, Gastil and Knobloch (2020) Hope for Democracy, Lopez-Rabatel and Sintomer (2020) Sortition and Democracy: History, Tools, Theories)。また論題の文言にもよるが多くの場合、既存の議会制度・選挙制度等についての分析も必要であり、そちらの方面からアプローチすることもできるため論題のエリアの広さは十分にある。 3)-2 ある程度の量の肯定側・否定側議論が作成可能であり、側による勝敗バランスが取れると考えられること(考えられる肯定側議論例・否定側議論例を添付のこと) メリット案 @より良い民意の反映 ・法案の個別チェック: 選挙のみでは、一般有権者は個々の法案に意見を反映することができない。マニフェストで提示される各党の政策パッケージに投票者はすべて同意して投票しているわけではない(例えば、経済政策は自民、憲法改正については立憲民主など、個々の有権者の政策選好は政党の公約と完全に一致しないことが少なくない)。また、選挙時にはあまり重視されていなかった法案が大きな争点になることもある(例:特定秘密保護法)。そのため、世論が反発する法案であっても多数党の力で国会を通過してしまうことがある。抽選制議会の導入は、このような事態を防ぎ、一般市民による法案の個別チェックを可能にする。 ・利益団体・富裕層の過大な影響力排除: 選挙代表は、選挙で当選するために利益団体や財界などの意向を優先しがちである(政治決定に対する富裕層の影響力の大きさを示すものとしては、Gilens Affluence and Influence, Bartels Unequal Democracyなどがある。また、日本語でも利益団体等の影響力を示す研究は多数あると思われる)。政策は、一般市民による法案チェックを可能にし、利益団体の政治決定の対する影響力を排除することを可能にする(ただし、むしろ抽選制議会の方が利益団体に脆弱であると指摘するものとして、Umbers(2018) “Against Lottocracy”)。 ・人口に比例した代表: 政治家の男女比率、年齢層、階層は一般有権者のそれとは大きく異なっている。そのため、一般有権者の利益から乖離した政策形成が行われる。他方、政策は無作為抽出によって、人口に比例した一般市民の代表を可能にする(例えば、Zakaras 2010。無作為抽出によって実現される描写的代表については、ピトキン『代表の概念』など)。 A正しい意思決定 ・選挙代表は、利益団体や政党、選挙区などに配慮するあまり、妥当な意思決定ができていない。他方、無作為抽出された代表は誰かに配慮する必要もなく、正しい意思決定ができる。実際、ミニパブリックス等の実証研究は、一般市民が正しく意思決定できることを示している(フィシュキン『人々の声が響き合うとき』。それに反論するものとして、Sunstein(2002)”The Law of Group Polarization”、Brennan(2016) Against Democracy)。 デメリット案 @衆愚政 ・必要な法案が通らない: 専門知識を持たない一般市民は耳触りのいい法案にのみ賛成してしまう。そのため、本当に必要な法案が通されなくなってしまう。特に増税など、市民に負担を強いる政策が通らなくなる恐れがある。 ・多数者の専制: 少数の人々にとって非常に重要な法案であっても、多数派にとって不利益な法案が通らなくなる。 ・危険立法の懸念:一般市民は知識に欠けており、まともな意思決定ができない(一般市民が政治的知識を欠いていることは多くの実証研究から示されている。例えば、ソミン(2016)『民主主義と政治的無知 ―小さな政府の方が賢い理由』、Brennan(2016) Against Democracyに紹介されている文献など)。 A過大な負担 ・数日参加するだけで良い裁判員制度でも、仕事などがある一般市民には参加が困難で、辞退率が非常に高い。より長期間にわたって市民を拘束する本政策は一般市民に過大な負担を課す点で許容できない。 ・またそれに伴って議会の構成に偏りが出る可能性もある(この論点については、裁判員制度に関する記事や文献を使うことができる)。 B極端な人々の代表 ・無作為抽出の結果として危険思想を持つ人間が議員に選ばれてしまい、例えば少数派を排斥するような法が制定されてしまう恐れがある(Brennan(2018) “Does the Demographic Objection to Epistocracy Succeed?”。それに反論するものとしては、Landemore Democratic Reasons)。特に、無作為抽出で選ばれた代表は選挙を通じたコントロールもできないので深刻である(Umbers (2018) “Against Lottocracy”)。 ・また議論を通じて集団の意見が極端な方向に向かう集団極性化の問題なども指摘される(Sunstein 2002、サンスティーンの書籍は多数の邦訳があり、それを参照することもできる。また、それへの反論としてフィシュキン『人々の声が響き合うとき』、田村哲樹『熟議の理由』、田中愛治ら『熟議の効用、熟慮の効果』など)。 C市民間の不平等 ・選挙で選ばれたのでもない特定の市民に多大な権力を与えるのは不正である(Umbers (2018) “Against Lottocracy”)。 〇論題の文言については、公式の議会レベルでの制度化など多少ラディカルな提案とした方がサイドバランスがよくなると考えている。諮問レベルだと、現状よりマシという話がとてもしやすいため極端に肯定側に有利になりうる。実験レベルでは研究者がある程度熟議の環境を理想的にセッティングしているため、望ましい結果が出ている実証研究も多数ある(少なくとも現状に比べてマシと思える)が、公的かつ一定程度の立法権限ないし拒否権をもたせるような制度にすることにより特に情報提供のプロセスに不確実性・不透明性が生じ、失敗のリスクも高まることで否定側の議論がしやすくなるように思える。 〇議論内容のイメージとしては国民投票制度に近いため、サイドバランスの不安は比較的小さいと思われる。ただし公的な制度としての導入例がない点についてはベーシックインカム論題と同様である。 3)-3 論題と同じ政策が論題使用期間中に実際に採択される可能性が十分低いと考えられること ⇒多少ラディカルな提案で憲法改正を必要とすることから、おそらくこの数か月内に日本で実際に導入されることはない。 ============================================================ [運営からのコメント] 本論題案については、そもそも2019年の秋季大会論題投票にも候補として採用しており、当時からの状況変化も少ないと考えています。特に第三者からのご意見がなければ、本論題案を、論題候補として投票にかけることについては、問題ないと判断します。 参考に、昨年の提案及びその後の議論についても、以下に添付させていただきます。 ==========以下2019年の議論========== ■論題案文言 「日本は国会を構成する議会のうち一部または全部を有権者からの無作為抽出で選出された議会に代置すべきである」 「日本は参議院議員の選出方法を有権者からの無作為抽出にすべきである」 「日本は非諮問型のミニパブリックス/討論型世論調査を導入すべきである」 ■論題背景に関する簡単な説明 論題の細かい文言にはいろんなバラエティが可能だが、ミニパブリックスを公式の制度として導入することを検討する論題案である。ミニパブリックスとは基本的には無作為抽出された一般市民からなる集団に適切な情報を与えつつ、議論を促し、その後にある政策の是非などについて投票を行わせるものである。中でも有名なのが討論型世論調査であり、日本でも実験が行われた。議員を選挙し、彼らに決定をゆだねる代議制民主主義を補完ないし代替する民主主義のオルタナティブとして注目を集めている。 ここ数十年の間に社会実験のレベルでは多数の実証研究が蓄積されており、諮問レベルではアイスランドやベルギー、中国など公的なレベルでも実施例がある。またミニパブリックスを支える規範的な根拠として熟議民主主義論が特に近年盛んに議論されてきている。 まさに「熟議」を実践するこの競技において、熟議について熟議してみよう、という提案である。 ■「論題案の要件」についての検討内容 1) 原則として、時事問題を扱った政策論題であること ⇒政策論題であり、抽選制の議会は近年実際に真剣に検討されている。特に、本論題案に対する関心はここ数年で世界的に飛躍的に高まっている点で注目される。まず、フィシュキンらの討論型世論調査は日本も含めた多くの国々で実施されている(フィシュキン『人々の声が響き合うとき』)。また、ベルギーのドイツ語圏共同体(人口7万人の自治体)では、無作為抽出された市民からなる常設議会を設置することが決まるなど(『選挙制を疑う』あとがき)、本格的な制度化の動きも各国で進んでいる。日本においても、昨年には北大の吉田教授( https://www.asahi.com/articles/ASKBM2RC1KBMUCLV002.html )や、九大の岡崎教授( http://politicaltheory.sblo.jp/article/184708041.html#more )などが抽選制議会を提唱し、今年の4月には抽選制議会の導入を提案するレイブルック『選挙制を疑う』の邦訳が出版されるなど、抽選制議会への関心が高まっている。 2) 主語は原則「日本は〜」「日本政府は〜」のいずれかであること ⇒日本は〜という形式になっている。 3) 1シーズン(約3ヶ月)に渡って議論可能な論題であること。すなわち、 3)-1 十分な量の資料が入手可能であること(Google、CiNii、NDL-Online等の検索検索結果の添付が望ましい) ・ミニパブリックス/ミニ・パブリックス/mini publicsの検索結果 CiNii: 16 ( https://ci.nii.ac.jp/fulltext?q=%E3%83%9F%E3%83%8B%E3%83%91%E3%83%96%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9&count=20&sortorder=1 ) NDL-Online: 12 ( https://ndlonline.ndl.go.jp/#!/search?lang=jp&keyword=%E3%83%9F%E3%83%8B%E3%83%91%E3%83%96%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9&searchCode=SIMPLE ) Google Scholar(英語):2650 ※“”付き検索 ( https://scholar.google.co.jp/scholar?hl=ja&as_sdt=0%2C5&q=%22mini+publics%22&btnG= ) ・討論型世論調査/deliberative poll(ing) CiNii:33 ( https://ci.nii.ac.jp/fulltext?q=%E8%A8%8E%E8%AB%96%E5%9E%8B%E4%B8%96%E8%AB%96%E8%AA%BF%E6%9F%BB&count=20&sortorder=1 ) NDL-Online:45 ( https://ndlonline.ndl.go.jp/#!/search?lang=jp&keyword=%E8%A8%8E%E8%AB%96%E5%9E%8B%E4%B8%96%E8%AB%96%E8%AA%BF%E6%9F%BB&searchCode=SIMPLE ) Google Scholar(英語):2280(“deliberative poll”), 4710(“deliberative polling” )  ※“”付き検索 ( https://scholar.google.co.jp/scholar?hl=ja&as_sdt=0%2C5&q=%22deliberative+poll%22&btnG= ) ( https://scholar.google.co.jp/scholar?hl=ja&as_sdt=0%2C5&q=%22deliberative+polling%22&btnG= ) ・熟議民主主義/deliberative democracy CiNii:74 ( https://ci.nii.ac.jp/fulltext?q=%E7%86%9F%E8%AD%B0%E6%B0%91%E4%B8%BB%E4%B8%BB%E7%BE%A9&count=20&sortorder=1 ) NDL-Online:95 ( https://ndlonline.ndl.go.jp/#!/search?lang=jp&keyword=%E7%86%9F%E8%AD%B0%E6%B0%91%E4%B8%BB%E4%B8%BB%E7%BE%A9&searchCode=SIMPLE ) Google Scholar(英語):30600 ※“”付き検索 ( https://scholar.google.co.jp/scholar?hl=ja&as_sdt=0%2C5&q=%22deliberative+democracy%22&btnG= ) ・Sortition Google Scholar(英語・日本語):2240 ( https://scholar.google.co.jp/scholar?hl=ja&as_sdt=0%2C5&q=Sortition&oq= ) Amazon(洋書):37 ( https://www.amazon.co.jp/s?k=Sortition&i=english-books&__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&ref=nb_sb_noss ) 〇日本語の文献も少なくなく、その内容も非常に充実したものが多い(例えば、田村哲樹『熟議の理由』、『熟議民主主義の困難』、田中愛治ら『熟議の効用、熟慮の効果』、フィシュキン『人々の声が響き合うとき』、柳瀬昇『熟慮と討議の民主主義理論』、早川誠『代表の思想』、レヴァイアサン第61号の熟議特集など)。熟議民主主義論については近年非常に関心が高まっていることもあり、書籍以外にも多数の研究論文が出されている(政治理論・政治哲学の書籍、民主主義関連の教科書には必ずといってよいほど、熟議民主主義についての章が置かれている)。抽選制議会に特に注目したものとしては、レイブルック『選挙制を疑う』がある。 これらに加えて、英語圏での研究の蓄積は膨大にあるため、資料が不足することはないと思われる。特に、抽選制議会を主題とした文献としては、Guerrero(2014) “Against Election”やZakaras(2010)”Lot and Democratic Representation”、O’Leary(2006) Saving Democracy: A Plan for Real Representation in Americaなど。また、今年の4月に出版されたLegislature by Lotは抽選制議会についての17の論文が収録されている。また論題の文言にもよるが多くの場合、既存の議会制度・選挙制度等についての分析も必要であり、そちらの方面からアプローチすることもできるため論題のエリアの広さは十分にある。 3)-2 ある程度の量の肯定側・否定側議論が作成可能であり、側による勝敗バランスが取れると考えられること(考えられる肯定側議論例・否定側議論例を添付のこと) メリット案 @より良い民意の反映 ・法案の個別チェック: 選挙のみでは、一般有権者は個々の法案に意見を反映することができない。マニフェストで提示される各党の政策パッケージに投票者はすべて同意して投票しているわけではない(例えば、経済政策は自民、憲法改正については立憲民主など、個々の有権者の政策選好は政党の公約と完全に一致しないことが少なくない)。また、選挙時にはあまり重視されていなかった法案が大きな争点になることもある(例:特定秘密保護法)。そのため、世論が反発する法案であっても多数党の力で国会を通過してしまうことがある。抽選制議会の導入は、このような事態を防ぎ、一般市民による法案の個別チェックを可能にする。 ・利益団体の影響力排除: 選挙代表は、選挙で当選するために利益団体や財界などの意向を優先しがちである(政治決定に対する富裕層の影響力の大きさを示すものとしては、Gilens Affluence and Influence, Bartels Unequal Democracyなどがある。また、日本語でも利益団体等の影響力を示す研究は多数あると思われる)。政策は、一般市民による法案チェックを可能にし、利益団体の政治決定に対する影響力を排除することを可能にする(ただし、むしろ抽選制議会の方が利益団体に脆弱であると指摘するものとして、Umbers(2018) “Against Lottocracy”)。 ・人口に比例した代表: 政治家の男女比率、年齢層、階層は一般有権者のそれとは大きく異なっている。そのため、一般有権者の利益から乖離した政策形成が行われる。他方、政策は無作為抽出によって、人口に比例した一般市民の代表を可能にする(例えば、Zakaras 2010。無作為抽出によって実現される描写的代表については、ピトキン『代表の概念』など)。 A正しい意思決定 ・選挙代表は、利益団体や政党、選挙区などに配慮するあまり、妥当な意思決定ができていない。他方、無作為抽出された代表は誰かに配慮する必要もなく、正しい意思決定ができる。実際、ミニパブリックス等の実証研究は、一般市民が正しく意思決定できることを示している(フィシュキン『人々の声が響き合うとき』。それに反論するものとして、Sunstein(2002)”The Law of Group Polarization”、Brennan(2016) Against Democracy)。 デメリット案 @衆愚政 ・必要な法案が通らない: 専門知識を持たない一般市民は耳触りのいい法案にのみ賛成してしまう。そのため、本当に必要な法案が通されなくなってしまう。特に増税など、市民に負担を強いる政策が通らなくなる恐れがある。 ・多数者の専制: 少数の人々にとって非常に重要な法案であっても、多数派にとって不利益な法案が通らなくなる。 ・危険立法の懸念:一般市民は知識に欠けており、まともな意思決定ができない(一般市民が政治的知識を欠いていることは多くの実証研究から示されている。例えば、Brennan(2016) Against Democracyに紹介されている文献など)。 A過大な負担 ・数日参加するだけで良い裁判員制度でも、仕事などがある一般市民には参加が困難で、辞退率が非常に高い。より長期間にわたって市民を拘束する本政策は一般市民に過大な負担を課す点で許容できない。 ・またそれに伴って議会の構成に偏りが出る可能性もある(この論点については、裁判員制度に関する記事や文献を使うことができる)。 B極端な人々の代表 ・無作為抽出の結果として危険思想を持つ人間が議員に選ばれてしまい、例えば少数派を排斥するような法が制定されてしまう恐れがある(Brennan(2018) “Does the Demographic Objection to Epistocracy Succeed?”。それに反論するものとしては、Landemore Democratic Reasons)。特に、無作為抽出で選ばれた代表は選挙を通じたコントロールもできないので深刻である(Umbers (2018) “Against Lottocracy”)。 ・また議論を通じて集団の意見が極端な方向に向かう集団極性化の問題なども指摘される(Sunstein 2002、サンスティーンの書籍は多数の邦訳があり、それを参照することもできる。また、それへの反論としてフィシュキン『人々の声が響き合うとき』、田村哲樹『熟議の理由』、田中愛治ら『熟議の効用、熟慮の効果』など)。 C市民間の不平等 ・選挙で選ばれたのでもない特定の市民に多大な権力を与えるのは不正である(Umbers (2018) “Against Lottocracy”)。 〇論題の文言については、公式の議会レベルでの制度化など多少ラディカルな提案とした方がサイドバランスがよくなると考えている。諮問レベルだと、現状よりマシという話がとてもしやすいため極端に肯定側に有利になりうる。実験レベルでは研究者がある程度熟議の環境を理想的にセッティングしているため、望ましい結果が出ている実証研究も多数ある(少なくとも現状に比べてマシと思える)が、公的かつ一定程度の立法権限ないし拒否権をもたせるような制度にすることにより特に情報提供のプロセスに不確実性・不透明性が生じ、失敗のリスクも高まることで否定側の議論がしやすくなるように思える。 〇議論内容のイメージとしては国民投票制度に近いため、サイドバランスの不安は比較的小さいと思われる。ただし公的な制度としての導入例がない点についてはベーシックインカム論題と同様である。 3)-3 論題と同じ政策が論題使用期間中に実際に採択される可能性が十分低いと考えられること ⇒多少ラディカルな提案で憲法改正を必要とすることから、おそらくこの数か月内に日本で実際に導入されることはない。 ============================================================ ■2019.06.29コメント 本論題案については、出てくる議論やバランスなどについてもきちんと裏付け調査されていると感じました。内容も興味深く、論題案として投票にかけて問題ないと考えています。 論題文言案が3種類あり、定まっていないので、引き続きご検討をお願いしたいです。 個人的には、3番目の文言案は、「非諮問的」という言葉が一般的でなく、また、討論型世論調査の結果が政策に反映されるのかどうかが不明で、論題採択後の世界が想像しづらいと感じています。また、2番目については、参議院に特定する理由が若干不明で(一院制の類推かとは思いますが…)、参議院ではなく、衆議院で抽選制を導入する(まさしく「衆」議院、と言えそうです)、といったカウンタープランが出てくる可能性があるのではないかと思われます。 そうなると、一番目の文言が良いのではないかと思いますが、「一部または全部」とすると、政策決定に影響のないレベル(数名程度、とか)での抽選制の導入といった、些末なプランが出てくる可能性も否定できないので、「大部分の」「すべての」といった文言でも良いのでは、と考えています。 いかがでしょう。 どうぞよろしくお願いいたします。 ============================================================ ■2019.06.29返信 もともと「一部、または全部」という文言は衆院ないし参院のどちらか、あるいは衆参両院の議員の選出方法をすべて無作為抽出に代えるという趣旨のつもりでしたが、この文言だと解釈の幅があまりに広いとわかりました。 第二案の参院限定は「衆院or参院or両方」というオプションを肯定側に与えることを懸念しての案でしたが、ご指摘の通りカウンタープランの存在を考慮すると、望ましくないと思います。 ですので、修正の方向性としては ・少なくとも片方の議会の構成員のほとんどが無作為抽出になるようにする。 ・衆参またはその両方の選択肢は肯定側に与え、衆のみCPが非命題的にはならないように注意する。 という2点を充たすように変更できればと思います。 たとえば、 「日本はすべての(大部分の)国会議員の選出方法を有権者からの無作為抽出にすべきである」 ーこの場合両院を変えるイメージで、肯定側のオプションは狭まる。 「日本は衆議院、もしくは参議院、またはその両方の議員の選出方法を有権者からの無作為抽出にすべきである」 ー肯定側のオプションが多い。 といった形になるかと思います。 肯定側の取りうる政策範囲が広すぎると否定側の負担が大きい可能性もありますが、秋大会でリサーチ期間が長いので問題ない可能性もあります。 この二つのうちどちらが望ましいかは正直結論が出せないところではありますが、ひとまずこのうちどちらかがよいと提案させて頂きます。 ============================================================ ■2019.07.21コメント 第22回JDA秋季論題案候補として提案のあった、「国会議員の無作為抽出」論題案についてですが、 こちらも投票にかけること自体は問題ないと考えています。 論題の文言についての結論が出ていませんが、提案者の方の意図としては、「衆院ないし参院のどちらか、あるいは衆参両院の議員の選出方法を全て無作為抽出に帰る」という趣旨のようですので、趣旨に忠実に文章化するならば、「日本は衆議院、もしくは参議院、またはその両方の議員の選出方法を有権者からの無作為抽出にすべきである」になるかと思います。 肯定側のオプションが多い(少なくとも、衆議院だけ、参議院だけ、両方、という3種類の政策が考えられる)という懸念はありますが、どのケースであっても、結局議論の内容はさほど変わらないのでは、とも思われます。 なので、特に異論がなければ、論題文言は、「日本は衆議院、もしくは参議院、またはその両方の議員の選出方法を有権者からの無作為抽出にすべきである」としたいと思います。 以上、よろしくお願いいたします。